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千葉地方裁判所 昭和53年(行ウ)4号 判決 1981年8月28日

原告 株式会社 全建

被告 成田税務署長

訴訟代理人 石井宏治 三上正生 高野幸雄 秋庭武 外三名

主文

一  本件訴のうち、

1  原告の自昭和四八年七月一日至同四九年六月三〇日事業年度分の法人税について、被告が昭和五〇年六月三〇日付でした更正処分ならびに過少申告加算税および重加算税の賦課決定処分のうち、被告が昭和五〇年一一月二七日付でした更正処分ならびに過少申告加算税および重加算税の賦課決定処分により取り消された部分

2  昭和五〇年一一月二七日付でした更正処分ならびに過少申告加算税および重加算税の賦課決定処分の各取消を求める部分を却下する。

二  右訴却下にかかる部分以外の原告の本訴請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

「1 原告の自昭和四八年七月一日至昭和四九年六月三〇日事業年度分の法人税について被告が昭和五〇年六月三〇日付でした更正、過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分並びに昭和五〇年一一月二七日付でした更正、過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分の各処分のうち、所得金額九一万二、二二六円を超える部分及びこれに伴う税額並びに過少申告加算税及び重加算の賦課決定処分を取消す。

2 被告が昭和五〇年六月三〇日付でした別表記載の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を全部取消す。

3 訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求める。

二  被告

(一)  本案前の申立

主文第一項同旨の判決を求める。

(二)  本案の申立

「原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求める。

第二陳述した事実

一  請求の原因

(一)  原告は、土木工事一式請負を目的とする会社である。

(二)  (法人税の更正処分)

1(1) 原告は、昭和四八年七月一日から四九年六月三〇日までの事業年度(以下、「本件事業年度」という。)分法人税につき、その青色申告書に所得金額を一〇万六、一二六円として、法定申告期限までに申告した。

(2) 被告は、昭和五〇年六月三〇日付で右金額を六九九万〇、三四九円、税額二〇七万六、〇〇〇円と更正する旨の処分並びに過少申告加算税の額を五万五、六〇〇円及び重加算税の額を二八万〇、二〇〇円とする賦課決定処分(以下、単に「原更正処分」という。)をし、そのころ原告に通知した。

(3) 原告は、これに対し、同年七月一一日国税不服審判所長に審査請求をした。

(4) ところで、被告は、右審査請求の手続中である昭和五〇年一一月二七日付で、所得金額を六〇六万〇、七四九円、税額を一六九万四、〇〇〇円に減額する再更正処分並びに過少申告加算税の額を四万二、五〇〇円及び重加算税の額を二四万六、六〇〇円とする変更処分(以下、「減額再更正処分」という。)をした。

(5) 国税不服審判所長は、原告の審査請求に対し、昭和五三年二月二一日付でこれを棄却し、原告はそのころ裁決書謄本の送達を受けた。

2 しかしながら、原告の本件事業年度の所得は、九一万二、二二六円、税額は二〇万五、三〇〇円であり、被告の昭和五〇年六月三〇日付原更正処分及び同年一一月二七日付減額再更正処分のうち右金額を超える部分は、原告の所得を過大に認定した違法がある。

(三)  (納税告知処分)

1(1) 被告は、原告に対する本件事業年度分法人税の調査に基づき、昭和五〇年六月三〇日付で別表記載の通り源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をした。

(2) 原告は、右の処分に対し、昭和五〇年七月一五日に被告に異議申立てをしたところ、異議審理庁は審査請求として取り扱うことを適当と認め、また原告も同年八月四日これに同意したので、国税通則法八九条第一項の規定により、同日に審査請求がなされたとみなされたが、国税不服審判所長は、昭和五三年二月二一日付で審査請求を棄却し、原告はそのころ裁決書謄本の送達を受けた。

2(1) 被告の本件納税告知処分は、原告が本件事業年度分法人税の所得金額の計算上損益の額に算入した重機賃借料及び労務費の額のうち二三九万二、〇〇〇円を原告の代表取締役太田英明に対して支給した賞与であると認定した判断に基づくものである。

(2) しかし、当該金員は、原告が土木工事の受注獲得を目的として発注先の従業員に対して支払つた運動資金であつて、太田英明が受領したものではないから、本件告知処分は違法である。

(四)  よつて、原告は被告に対し、請求の趣旨記載の処分の取消を求めるため本訴に及ぶ。

二  本案前の答弁および本案の答弁

(本案前の答弁)

1 原告は被告が昭和五〇年一一月二七日付でなした原告の本件事業年度分の減額再更正処分(同日付の本件事業年度分の法人税の更正、過少申告加算税および重加算税の賦課決定処分)の取消を求めている。

2 しかし被告が原告の本件事業年度分の法人税等についてした減額再更正処分は、原更正処分(昭和五〇年六月三〇日付で被告がした原告の本件事業年度分の法人税の更正、過少申告加算税および重加算税の賦課決定処分)に基づく法人税額、過少申告加算税額および重加算税額を減少させる減額再更正処分であるから、原更正処分は右減額再更正処分によつて、減額再更正処分を上回る限度において、その一部が取り消されたものというべきである。

したがつて、原告が取消を求める更正処分のうち、当該部分の取消を求める部分はその法律上の利益がないから却下さるべきである。

また、減額再更正処分は、原更正処分の一部(減額される部分)を取消す効力のみを有する原告に利益な処分であるから、同処分の取消を求める原告の訴えは、その法律上の利益がないから、却下さるべきである。

(本案の答弁)

請求原因事実中(一)、(二)の1の(1)ないし(5)、(三)の1の(1)(2)および同2の(1)は認める。(二)の2および(三)の2(2)は争う。(四)は争う。

(主張)

被告のした原告主張にかかる更正処分および加算税賦課決定処分ならびに納税告知処分は適法である。

(一) 本件更正処分の関係

1 原告の本件事業年度の所得金額は、次に記載のとおり金八三二万四、七九七円であるから、右所得金額の範囲内である六〇六万〇七四九円を原告の所得金額と認定して被告がした昭和五〇年六月三〇日付法人税額等の更正処分(同年一一月二七日付減額再更正処分により一部取り消された後のもの、「本件更正処分」)は適法である。

番号                      金額(円)

(1) 申告所得金額                一〇万六、一二六

(2) 重機賃借料否認              二一一万二、〇〇〇

(3) 労務費否認                三二九万九、〇〇〇

(4) 減価償却費否認              一二七万三、二〇九

(5) 譲渡益計上もれ               七九万二、一二八

(6) 役員賞与損金不算入             七五万〇、〇〇〇

(7) 未成工事支出金計上もれ            四万七、一〇〇

(8) 罰科金否認                  二万七、〇〇〇

(9) 前期分事業税認容            △  一万八、〇〇〇

(10) 固定資産(コンプレツサー)売却益減算 △  六万三、七六六

(11) (差引合計)所得金額          八三二万四、七九七

2 右表(以下、「本件表」という。)のうち、(1)および(6)ないし(9)の各項目については当事者間に争いがないから、その余の各項目について、争点を明らかにするとともに本件更正処分の適法性を主張する。

(1) 重機賃借料否認 二一一万二、〇〇〇円

(ア) 原告は、重機賃借料の名目で次のとおりの金額を損金に算入している。

支払年月日  支払先      支払金額(円)

四九、二、五 三幸興業株式会社 一五九万二、〇〇〇

未払       〃       五二万〇、〇〇〇

合計              二一一万二、〇〇〇

(イ) しかし、右三幸興業株式会社(以下、「三幸興業」という。)は実在しない架空の会社であり、支払金額も架空の経費であり、右金額は損金算入を否認されるべきである。

また、原告は右金員を荏原雅夫または東洋通信工業株式会社(以下、「東洋通信」という。)に対する受注リベートとして支払つた旨述べるが、この事実も認めがたいものである。

(2) 労務費否認 三二九万九、〇〇〇円

(ア) 原告は、労務費の名目で左表記載の金額を損金に算入している。

番号 支払年月日    支払先        支払金額(円)

<1> 四九、四、二〇 有限会社久多良工務店 一五二万〇、〇〇〇

<2> 四九、五、二〇    〃        六二万五、〇〇〇

<3> 四九、六、二五    〃        六七万五、〇〇〇

<4> 未払         〃        四七万九、〇〇〇

合計                    一三二九万九、〇〇〇

(イ) しかし、有限会社久多良工務店(以下、「久多良工務店」という。)は実在しない架空の会社であつて、右支払金額は、架空のものであるから、右金額は損金算入を否認されるべきものである。

原告は、<1>のうち金八〇万円は受注リベートとして支払われた旨述べるが、そのようなことは、認めがたい。

(3) 減価償却費否認一二七万三、二〇九円((4))及び譲渡益計上もれ七九万二、一二八円((5))

(ア) 原告は、本件事業年度において、次表記載のとおり、原告所有の減価償却資産の当該事業年度の期末までに係る減価償却費を損金に算入している。

(イ) しかし、当該資産(以下、単に「本件資産」という。)は、本件事業年度中である昭和四九年二月に、日豊通信建設株式会社(以下、「日豊通信」という。)に対して譲渡したものであるから、譲渡日後に係る次表記載の減価償却費一二七万三、二〇九円(昭和四九年三月一日~同年六月三〇日)は損金に算入することは許されない。

日豊通信に譲渡した資産

<1>原告会社が損金に算入した減価償却費

<2>(<1>×8/12)

譲渡日までに係る減価償却費

(48・7・1~49・2・8)

<1>-<2>

差引譲渡日後に係る否認額

T六五一〇四トン三菱ダンプ

三九万六、二二八

二六万四、一五二

一三万二、〇七六

KM三二〇四トン日野ダンプ

一七万〇、七六三

一一万三、八四二

五万六、九二一

H―五〇三菱ユンボパワーシヨベル

一六八万〇、九三九

一一二万〇、六二六

五六万〇、三一三

コンクリートカツター

九万五、二三二

六万三、四八八

三万一、七四四

ユンボフオード 四五〇〇

一四七万六、四六五

九八万四、三一〇

四九万二、一五五

コンプレツサー

――

――

――

合計

三八一万九、六二七

二五四万六、四一八

一二七万三、二〇九

(ウ) また、右本件資産の譲渡価額は、次表記載のとおりであるが、右譲渡とともに、原告の小形に対する債権の額二二三万八、八一八円を右日豊通信が引き継ぎ、右債権額を譲渡価額に含めて取り引きを行つているので、原告における右譲渡資産の合計譲渡益は次表記載のとおり七九万二、一二八円となる。そして、右譲渡益は当然益金として計上すべく、したがつて、原告会社の所得金額に加算すべきものである。

日豊通信に譲渡した資産等

<1>

譲渡価額

<2>

譲渡時の帳簿価額

<3>(<1>-<2>)

譲渡損益

T六五一〇四トン三菱ダンプ

KM三二〇四トン日野ダンプ

一九五万〇、〇〇〇

六四万〇、四七九

二七万六、〇二九

一〇三万三、四九二

H―五〇三菱ユンボパワーシヨベル

四四〇万〇、〇〇〇

三四三万四、七六五

九六万五、二三五

コンクリートカツター

三〇万〇、〇〇〇

一九万四、五九五

一〇万五、四〇五

ユンボフオード四五〇〇

四五五万〇、〇〇〇

三〇一万六、九五二

一五三万三、〇四八

コンプレツサー

六五万〇、〇〇〇

一二五万六、二三四

△ 六〇万六、二三四

小形に対する債権の額

二二三万八、八一八

△二二三万八、八一八

原告は、被告の右主張に対し、右表の資産のうちコンプレツサーを除くその余の各資産は本件事業年度の期末に残存しており、日豊通信に譲渡した事実はない旨主張するが、事実に反する。

(エ) 原告は、前記(イ)(ウ)記載のコンプレツサーを昭和四九年一月三一日に小形組に一三二万で譲渡したとして、その譲渡益六万三、七六六円を益金として計上しているが、右コンプレツサーを原告が小形組に譲渡した事実はないから、右譲渡益六万三、七六六円を所得金額から減算すべきものである。

(オ) (差引合計)所得金額 八三二万四、七九七円

前記(一)1の本件表の(1)ないし(10)の差引合計金額であり、原告の本件事業年度の所得金額である。

3(1) 本件加算税賦課決定処分は、原告が昭和四九年八月三一日に被告に対して本件事業年度分の法人税額を二万四、〇〇〇円とする法人税の確定申告書を提出したことに対し被告が納付すべき法人税額を一六九万八、四〇〇円とする本件更正処分をなしたことに伴つてなした処分であり、その内容は次表のとおりである。

(単位 円)

区分

加算税の計算の基礎となる税額

税率(%)

税額

過少申告加算税

八五万一、〇〇〇

四万二、五〇〇

重加算税

八二万二、〇〇〇

三〇

二四万六、六〇〇

(2) 右処分のうち、重加算税賦課決定処分は、本件更正処分に係る課税標準のうち、原告が三幸興業に対する重機賃借料として損金算入した二一一万二、〇〇〇円及び久多良工務店に対する労務費として損金算入した三二九万九、〇〇〇円の内八〇万円(原処分庁は八〇万円のみ否認しているところである。)について、法人税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したものであるとして、国税通則法六八条一項、同法施行令二八条一項を適用して重加算税の計算の基礎となるべき法人税額を計算したところ、重加算税対象法人税額は八二万二、〇〇〇円と算出されたので、右法人税額を基礎として賦課決定したものである。

前記2(1)および(2)で述べたとおり、原告は架空の会社である三幸興業及び久多良工務店に対する支払として架空の経費を計上したものであり、これは法人税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいし、又は仮装したこととなるから、本件重加算税賦課決定処分は適法である。

(3) また、過少申告加算税賦課決定処分は、本件更正処分により新たに納付すべき法人税額から重加算税賦課決定処分の計算の基礎となつた部分を控除したものを過少申告加算税の計算の基礎としたものであり何ら違法はない。

(二) 本件納税告知処分関係

1 被告が原告会社代表者の太田に対する賞与であると認定し、納税告知処分をなしたものは次表のとおりである。

番号

支払先

金額(円)

種類

支払銀行

振出日

引出日

<1>

三幸興業

一五九万二、〇〇〇

小切手

No.一〇七二三二

第一勧銀

(成田)

四九、二、五

四九、二、七

<2>

久多良工務店

一五二万〇、〇〇〇のうち八〇万〇、〇〇〇

小切手

No.三一二〇四

成田信金

(富里)

四九、四、二〇

四九、四、二〇

すなわち、右表<1>の一五九万二、〇〇〇円は前記(一)2(1)で述べた架空重機賃借料二一一万二、〇〇〇円のうち昭和四九年二月五日の支払いに係るものであり、同表<2>の八〇万円は前記(一)2(2)で述べた架空労務費三二九万九、〇〇〇円のうち昭和四九年四月二〇日支払いに係る一五二万円のうちの一部である。

2 ところで、原告は右金員はすべて受注リベートとして荏原に支払われたものであるから、原告会社代表者の太田に対する賞与であると認定したうえなした本件納税告知処分は違法である旨主張する。

しかし、原告の右主張は以下に述べるとおり失当である。

(1) 前記(一)2(1)および(2)で述べたとおり原告が荏原に右金員を受注リベートとして支払つたという事実は、認められない。

(2) 右金員は右表のとおり原告の支払小切手を原告自らが裏書によつて現金化しており原告に留保されておらず、右金員が荏原に交付されていない以上、以下(ア)及び(イ)の事実からみて、原告会社代表者の太田が右金員を収得したものと認めるのが相当である。

(ア) 原告は太田を中心とする同族会社であり、原告の経理、営業等会社経営の一切につき太田が実権を掌握し、公私混同の事実も相当認められる状態にあつたのであり、右の状態の下において、右金員は、太田の指示により小林が操作し、さらに現金化された右金員は太田に手渡されていた。

(イ) 原告は昭和四八年一二月、一〇〇万円だつた資本金を四〇〇万円に増資し、更に同四九年八月頃、一〇〇〇万円に増資しているが、後者の増資資金のうち株主三橋信夫(以下、「三橋」という。)の五〇万円(一五〇万円から二〇〇万円に増出資)を除く五五〇万円はすべて太田が拠出したものである。

しかし、太田の昭和四八年から同四九年にかけての年間報酬は、わずか三〇〇万円であり、その他の収入があつた旨の証拠はないから、太田が昭和四八年一二月にも相当額の増資資金を拠出していると推認されることを考えると、それからわずか八箇月ほど後に五五〇万円もの増資資金を拠出することができたとは、特段の事情がない限り、考えられない。

そして、原告の帳簿における交際費勘定の中には、ゴルフに参加していない者の氏名を使用して、あたかも原告がゴルフの接待をしたように仮装しているところ、右事実は、太田の個人的ゴルフプレー費用を原告の費用として計上しているという事実を裏付けるものであり、更に、太田が原告の金員を容易に着服収得することができるという事実を裏付けるものであること、並びに原告の使途不明金でリベート以外のものは太田が個人的に費消したものと解されることからみて、荏原に受注リベートとして支払つたとされる前記金員は太田が収得して右増資資金の一部に充当するなどして費消したものと推認するのが相当である。

以上のごとく原告の架空経費による右金員は、これを自己専一の管理下において操作し、容易に自己の恣意により処分できる地位にあつた原告会社代表者の太田が取得費消したものと推認されるから、被告は、原告が太田に臨時的な給与、すなわち賞与を支給したものであると認定し、本件納税告知処分をしたものであり、何ら違法はない。

3 更に、原告は本件納税告知処分に係る源泉所得税の対象となつた役員賞与の支給に関して、これを法定納期限までに納付しなかつたのであるから、被告が国税通則法六七条一項に基づいて、それぞれ法定納期限までに納付すべき源泉所得税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した不納付加算税の賦課決定処分をしたのは適法である。

三  被告主張に対する認否および反対主張(原告)

(認否)

(一)の1は認める。2の(1)について(ア)は認める。(イ)は争う。その点の主張は後記反対主張の1のとおりである。(2)について(ア)は認める。(イ)は争う。その点の主張は後記反対主張の2のとおりである。

(反対主張)

1 重機賃借料二一一万二、〇〇〇円及び労務費のうち八〇万円について

(1) 右金員は荏原雅夫または東洋通信に対する受注リベートとして支払われたものであり、経費として肯認さるべきものである。

(2)(ア) 原告は、昭和四九年二月頃、荏原雅夫(昭和五〇年一月一七日死亡)から、日本鋼管工事株式会社(以下、「鋼管工事」という。)が千葉県袖ケ浦に「東京電力瓦斯パイプライン二期工事第一工区」の工事を計画しており、原告が同人に対し金二〇〇万円程度のリベートを支払えば原告に当該工事の受注を斡旋する旨の申入れがあり、原告も右申入れを承認した。

(イ) 原告は、同人の申入れに基づき、同年三月ごろに当該工事の見積書を鋼管工事あてに提出し、また当該工事に必要な重機等を購入(昭和四九年四月二二日、三菱MS―六〇ユンポを一、一二一万円で購入)してその準備をしたが、結果的には、当該工事を受注することができなかつた。

(ウ) ところが、この間原告は荏原に対し、

(I) 原告が昭和四九年二月五日付で振出した額面一五九万二、〇〇〇円の小切手を現金で払出し、同年二月中、東京電力袖ケ浦発電所の近くのボーリング場の喫茶店において、原告代表者太田英明が荏原に金一五九万二、〇〇〇円を手渡し、

(II) 原告が昭和四九年四月二〇日付で振出した額面一五二万円の小切手を現金で払出し、このうち七二万円は労務費として久多良工務店に支払い、残八〇万円については、同月二三日頃、国電成田駅前の喫茶店において、原告専務取締役小林耕士が荏原に手渡した。

(3)(ア) 東洋通信(東京都港区東新橋二―三―九所在)は昭和四九年中、電々公社から茨城県東海村の電話線敷設工事を請け負いその工事を施行することとなつていた。

(イ) 原告は、昭和四九年春頃、東洋通信の電線工事の一部を下請けしたいと考え原告従業員斉藤雄三(かつて東洋通信に約七年勤務していた)を通じ、東洋通信社員小田某と協議した結果、東洋通信の電線敷設工事に伴う道路舗装工事を原告において下請けすることを条件に、原告が右小田に対し金五〇万円を支払う旨の合意が成立した。

(ウ) そして、右リベート契約に伴う金五〇万円は、昭和四九年七月二二日原告従業員斉藤雄三が東海村所在の東洋通信の工事事務所において小田に対し支払つた。

(エ) 右リベート払が本件事業年度末(昭和四九年六月末)までになされなかつたので、原告は、三幸興業の重機賃借料(未払)五二万円として会計処理したものである。

(4) 原告は、以上の通り荏原または東洋通信に支払われた金員につき、同人がリベートを受取つたとの事実を秘すため、止むを得ず、二一一万二、〇〇〇円を三幸興業に対する重機賃借料とし、八〇万円を久多良工務店に対する労務費(外注工賃)として経理処理したものである。

右の各科目は架空であるが、これらの金額は、前述の通り受注リベートとして支払われたものであるから経費として認定されるべきである。

2 (労務費三二九万九、〇〇〇円)

被告の主張する労務費三二九万九、〇〇〇円のうち前記八〇万円を差引いた部分(二四九万九、〇〇〇円)については、更正処分の理由にも審査裁決の理由においても付記されていなかつた新たな事実の主張であるから、青色申告に対する更正処分に理由付記を要する趣旨からすれば、付記理由以外の事実を以て更正処分の正当性を根拠づけることを許さないものと解すべきであるから、被告の訴訟段階での前記主張は許されないものである。

3 (減価償却費否認一二七万三、二〇九円及び譲渡益計上もれ)

被告の主張する減価償却費否認及び譲渡益計上もれの理由は、更正処分に付記された理由と全く異なるものであり、かような所謂理由の差し換えを許容することは、実質的には当初の処分が全く理由を欠いていたことと同視されうるから、被告の右主張は許されない。

四  更正付記理由以外の事実を訴訟上主張することは許されない旨の原告の主張に対する反論(被告)

1  課税処分取消訴訟において、課税庁が従前主張していなかつた課税根拠を主張して原処分額を維持し得ること及び納税者が申告時と異なる課税軽減の根拠事実を新たに主張し得ることは、いわゆる総額主義と称され税務訴訟における判例上確立した理論である(代表的なものとして、最判昭和三六年一二月一日訟務月報一四巻二号六三頁、最判昭和四八年六月二八日税務訴訟資料七五号一六三頁、最判昭和四二年九月一二日訟務月報一三巻一一号一〇八頁等がある)。

2  ところで、青色申告に対する更正処分について理由付記が求められる(法人税法一三〇条二項)ゆえんは「処分庁の判断の慎重・合理性を担保してこの恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨」(最判昭和三八年五月三一日民集一七巻四号六一七頁)によるもので、青色申告者に対する更正処分の手続的保障を規定したものと解されている。したがつて、右の理由付記が不備であれば、青色申告者は税額の争いとは別個に更正処分の手続自体を争うことを保障する趣旨のものであつて、これ以上に納税者に格別の利益を与えるものではない。そして本件更正の理由付記の手続上の適否については、不服申立ての段階から争われたことがないからその適法性が確定しているというべきである。

一方、本件のごとき訴訟について、被告が更正処分に理由付記した更正理由に拘束され、これと異なる主張を制限されるとすれば、青色申告者の所得については理由付記以外の新たな所得の存在が判明し、更正処分において認定した所得金額以上の所得金額が認められても理由付記による所得金額の存在が認められない限り当該更正処分が違法として取り消されるべきものとなつてしまう。しかしながらこう解することは、青色申告者に対する更正処分の手続上の保障という法の趣旨を不当に逸脱し、格別の法令の根拠がないにもかかわらずその理由付記に特別の意味付けを与え、必要以上に課税庁を拘束して、不誠実な納税者を不当に利する結果となる。

更に、青色申告者の提起する更正処分取消の訴えの審理の対象は、他の行政処分取消の訴えあるいは白色申告者の提起する処分取消の訴えと同様、当該の違法性一般であることが明らかであるから、本件訴えにおいても総額主義が採用されるべきことは当然である。

3  本訴と更正付記理由が齟齬する点は久多良工務店に対する労務費と、原告が日豊通信に対して譲渡した資産に関する事項だけであつて、これらの主張は、更正の付記理由を全く無視した主張ではなく更正の付記理由に関する課税要件事実の基本的部分は共通しているのである。すなわち、労務費に関しては、原告が久多良工務店に対する労務費として損金経理していた三二九万九、〇〇〇円のうち、原処分では八〇万円を架空として否認する旨の理由を付記したものを本訴において、久多良工務店に対する労務費三二九万九、〇〇〇円全額を否認し、また資産の譲渡については、原処分は、原告が日豊通信に対して建設重機を無償貸与しているとの主張を採用して当該無償貸与を原告の日豊通信に対する寄付金であると認定して、その損金算入限度超過額を益金に加算する旨の理由を付記して更正処分したのを、本訴において、原告は、日豊通信に対して当該建設重機を譲渡したものと認定し、同建設重機に係る減価償却費を否認し及び譲渡に伴う譲渡益を加算して主張しているものである。しかも右建設機械の譲渡は、原処分の後の被告の調査ではじめて明らかとなつたものであつた。

したがつて本訴の主張はいずれも更正処分通知書に記載されていた付記理由と基本的事実についての同一性が認められ、原告の本訴における攻撃防禦の方法の提出に何ら不利益を与えることはないのである。

第三証拠<省略>

理由

第一減額再更正処分等の取消を求める訴の適否

原告が本訴において取消を求める昭和五〇年六月三〇日付原更正処分のうち、昭和五〇年一一月二七日付でされた減額再更正処分により取り消された部分(減額部分)(税額一六九万四、〇〇〇円を、過少申告加算税額四万二、五〇〇円を、重加算税額二四万六、六〇〇円を、各超える部分)は、前記減額再更正処分により取り消されすでにその効力を生じているから、原告は本訴により改めてその取消を求める利益はないものというべく右部分の訴は、不適法である(最判四六・三・二五訟務月報一七巻八号一三四八頁参照)。また、原告が本訴において取消を求める減額再更正処分は原更正処分の一部(減額された部分)を取り消す効力のみを有し、とくに改めて原更正処分のその余の部分(取り消されない部分)について改めて積極的にこれを是認する別個な独立の処分ということはできず、その実質は当初の更正処分の変更にすぎない。したがつて右減額再更正処分は原告にとつて利益な処分であつて、不利益なものではないのだから、原告は右減額再更正処分の取消を求める法律上の利益はなく、右部分の訴は不適法である(最高裁昭和五二年(行ツ)第一二号第二小法廷判決昭和五六年四月二四日参照)。

第二減額再更正処分により減額された部分以外の原更正処分(本件更正処分)の取消を求める本訴請求の当否について

一  請求原因事実中、(一)、(二)の1の(1)ないし(5)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件更正処分の適否について、検討する。

1  本件更正処分のうち被告主張の(一)1記載の本件表の(1)ならびに(6)ないし(9)の項目については、当事者間に争いがない。

2  本件表(2)重機賃借料否認の項目について

(一) 被告主張の2の(1)について(ア)は当事者間に争いがない。

(二) この点について、原告は荏原雅夫に対し二回にわけ合計金二三九万二、〇〇〇円をまた、東洋通信小田某に対し金五〇万円を受注リベートとして支払つたものであり、経費として肯認されるべきものであると争う。いずれも担当公務員作成部分については成立に争いがなく、その余の部分は証人藤原修志の証言により成立を認めることができる乙第一二号証ないし第一四号証、証人小林耕士の証言によりいずれも原本の存在および成立を認めることができる甲第八号証の一ないし五、同証人の証言(但し一部)、証人藤原修志の証言、原告代表者の供述(但し一部)を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1) 鋼管工事袖ケ浦事業所(千葉県君津郡袖ケ浦町中袖一九―一所在)は、所長兼次長一名、主任一名、(工区)土木技師数名その他の職員総勢約二〇名ぐらいからなるもので、荏原雅夫は、右土木技師として在職し、現場監督の地位にあつたものである。

(2) 鋼管工事袖ケ浦事業所は、千葉県袖ケ浦地区で、東京電力瓦斯パイプライン二期工事第一工区の工事を担当していたから、昭和四八年暮頃から翌四九年早春にかけて右工事についてゼネコン(大手業者)のみならず中小企業である原告、他二社から見積書を提出させていた。

(3) ところが、注文者である東京電力の希望もあつて、鋼管工事は昭和四九年春には右工事をゼネコンに請け負わすべきことが決定していた。

(4) もつとも、原告は、右工事の一部請負を強く期待し、右工事に必要な重機などの建設機械を、昭和四九年四月頃、多額の資金を投入して購入している。したがつて、原告は昭和四九年四月頃には、まだ、右工事を鋼管工事から一部請け負うべきことを期待していたことが窺えるが、鋼管工事からそれ以上に右工事の請負について指示を受けていたことは証拠上認めにくい。

(三) 右認定のもとにおいて、原告が果たして、荏原雅夫に対し、原告主張のようなリベートを交付していたかどうかについて考察する。

荏原雅夫は、前記認定のとおり鋼管工事袖ケ浦事業所においても、少なくとも所長(兼次長)、主任などより下位の地位にすぎず(なお、同人は、昭和五一年一月死亡した)、工事を請け負わせて貰えるかどうか分らない段階において、右のような地位にとどまる者に対してだけ、事前に二回にわけて約二四〇万円弱もの大金をリベートとして提供すること自体、鋼管工事から工事の請負を図ることを目的とするリベートの趣旨からみて疑問であり、容易に事前に大金の提供があつたものと認めることはできない(結局、原告は、工事を請け負えなかつたことは前記のとおりである)。また、原告の主張によると原告は、昭和四九年四月二〇日金一五二万円の小切手を現金化し、内七二万円を久多良工務店に対し労務費として支給し、残金八〇万円を右荏原に対しリベートとして交付したと主張するところ、証人小林耕士の証言中には右趣旨にそうものもあるが、同時に同証人の証言によれば、久多良工務店が当時原告に労務者を提供したことはなく、ただ、単に事務処理手続上、あり合せの久多良工務店の印を利用して架空の労務費として支出した名義をとつたにすぎないことが認められるのであり、したがつて、同証人の証言は単に久多良工務店の支払の点の疑問のみならず、金八〇万円を前記荏原に対し交付したとする点については、その真否に疑問が生ずるものである(かえつて右荏原が死亡しているのを奇貨として、原告はリベート支出による経費として損金処理を可能ならしめようとしたとの疑問が生ずる)(このことはかりに荏原が工事請負と関連し、見積書の作成について原告に対しアドバイスをしていたことが事実としても変らない)。

以上のように考えてみるとこの点の原告の主張は証拠上認めがたいものというべく原告主張にそう部分の証人小林耕士の証言、原告代表者の供述は、信用しがたいものである。

(四)(1) 原告は、更に金五〇万円を東洋通信の小田某に対しリベートとして交付した旨主張する。

(2) 原告は従来、一貫して、右金五〇万円を含めて約二四〇万円弱の金員を前記鋼管工事の荏原に対するリベートとして交付した旨を主張していたことは、成立に争いのない甲第五、六号証および当審における訴訟の経緯に照らし、明らかである。

ところが、昭和五四年一一月二日(第九回弁論期日)の証人小林耕士の証言によつて、はじめて原告従業員斉藤雄三を通じて東洋通信の小田某に対しリベートとして金五〇万円を交付したことが述べられ、原告代表者も、昭和五五年七月四日(第一三回弁論期日)において、同趣旨の供述をし、これに応じて、原告も、昭和五五年九月五日付準備書面において、従前の一貫した主張を訂正・変更し、右証言または供述にそう主張をはじめたものである。

(3) しかし、原告がかりに真実に東洋通信の小田某に対し金五〇万円をリベートとして交付していたとするならば金五〇万円を一度に交付したというのである(何回にも細分して交付したことは主張も、証拠もない)から必ずしも当時低額とはいえない金額について行政不服審査の手続段階、本訴提起に至る段階までの四年間以上も原告代表者において覚え違いを続けるということは、通常ならば考えられないことである(少なくとも行政不服審査の、しかも相当初期の段階で、記憶違いということが明らかにされるのが通常といえよう)。

このように考えてくると、東洋通信の小田某に対し金五〇万円をリベートとして交付したという証人小林耕士の証言並びに原告代表者の供述はにわかに信用しがたく、他に前記原告の主張を裏付けるに足る証拠はない。

(4) 以上のように比較検討すると、原告の前記五〇万円のリベートとしての支払いの主張も認めがたいということになる。

(五) 以上のように、この点の原告の主張はいずれも認めがたく、したがつて、他に、特段の事情の認めがたい本件においては、被告が本件表(2)重機賃借料二一一万二、〇〇〇円の損金算入を認めがたいと判断したのは相当である。

3  本件表(3)労務費否認の項目について

(一)(1) 原告は、まず労務費金三二九万九、〇〇〇円のうち、金二四九万九、〇〇〇円について、更正処分の理由にも、審査裁決の理由にも付記されていない新たな事実の主張であつて被告が本訴において主張することは許されないというのに対し、被告は、<1>総額主義を理由に付記理由と異なる別個の事由を主張することができる。かりにそうでないとしても<2>被告の主張は、更正処分に付記された理由と基本的事実と同一性の認められるものだから、適法に主張することが許されると争うから、この点について、判断を加えることとする。

(2) 青色申告のなされている法人税等と関連して、提起される更正処分取消請求の訴において、更正処分等に付記された理由と異なる別個の事由を主張することができるかどうかについては問題はあるが、当裁判所は右の場合において、被告は付記された理由以外の事由を主張して(更正処分に付記された理由と基本的事実との同一性のいかんにかかわらず)更正処分の正当性を主張することができると解する。

その理由は、次のとおりである。

(ア) 更正処分に理由付記が要求される(法人税法一三〇条二項)のは、処分庁の判断の慎重さ、合理性を担保しその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて、不服申立てに便宜を与える趣旨であると解される(最判昭和三八年五月三一日民集一七巻四号六一七頁参照)。

したがつて、このような目的を達成することができないような理由の付記がなされても、適法に理由付記がなされたことにはならず、その内容の当否とは別として、それだけで、更正処分は違法として取り消されることになる。その意味では、理由の付記について、法の要求する適法な理由付記がなさるべき旨の手続上の保証を与えたものといえる。

(イ) しかし、付記された理由以外の事由について、当該取消訴訟において、主張、立証することは許されないとする保証まで与えたものとはいえない。その点については法はなんらふれていない。

(ウ) もともと、税は、客観的真実に即した所得に応じて課税されるべきであり、青色申告の制度も、課税庁が真実に即した所得を比較的容易に把握することができる合理的なものとして容認されているものである。

したがつて、真実の正確な(少なくとも最小限度の)所得が判明している以上もともと課税権者である行政庁が真実の所得に応じて課税すべきなのであり、更正処分において付記されていない事由も、その取消請求訴訟において主張することができるものと解するのが相当である。

さもないと真実の正確な所得が判明しているのにかかわらず、特別の法令の根拠がないのに、納税の義務を免れる結果を招来し、青色申告者に対してだけ、著しく不当に優遇を与えることになり、他の納税者に対し、不平等感を与え、納税意識を著しく減退させる結果をもたらし、妥当でない結果を招くおそれがあるからである。

(エ) 原告は、理由の差し換えは、実質的に当初の更正処分が全く理由を欠いていたものと同視することができるから、右差し換えは違法であると争うが、そうではない。

なぜならば、更正処分当時に、課税庁において把握していた所得事由に基づく所得金額が正当でなかつたこと自体は、肯定されなければならないが、審査ないし訴訟段階までの調査、資料蒐集の結果判明した結果に基づいて、右更正処分の所得金額の範囲内において正確な所得額に基づいて所得の存在したことが証明されれば、その正しい所得に見合う租税を納税すべきことは当然のことだからである。そのような所得が新たに発見されること自体、本来青色申告が法の定めるとおり正確かつ適正になされれば、あり得なかつたはずのものである。右のような事態が生ずること自体(納税義務の履行という点からみれば)、本来、当該納税者において信義にもとることをしたためなのである。

(オ) 青色申告は、納税者による正確かつ誠実な申告がなされることを前提とし、したがつて、更正処分をする段階においてもなお、不十分ながらも納税者の可能なかぎりの正確かつ誠実な申告を前提としてなされるから、必ずしもその調査などについても完全を期しがたい場合もある。それが相手方からの強い争いにより、いわば課税庁が調査を尽くすことにより、新たな所得が判明することもある―本来そのようなことはありうべきではないが―以上、それについて改めて更正処分を経ないでも―判明する時期によつては、改めて更正処分をすることができない場合もある―これをもとにして、従前の更正処分を維持することができる理由としても、実体上不当ではない。

また、このように解したからといつて、相手方は課税処分について不当に不利益を受けるものではない(もともとなさるべき課税が明らかにされたにすぎない。処分庁としては新たに判明した所得金額により再び更正処分をする意図があるわけではなく、単にさきになした更正処分を維持し得れば足るとしているのであり、従つて、その税額も、更正処分所定の税額のとおりであつて、変動するわけのものでないことはもちろんである)。

(カ) もつとも、不誠実な納税者を不当に利すべきでないとするためには、青色申告承認取消の処分をしてからなすべきであるとの批判もあり得ようが、右承認の取消処分をしなくても(また場合によつては、承認処分を取り消すまでに至らないときもありえよう)、右更正処分を維持すれば足りるとすることも十分理由があるのであり、したがつて、右承認処分を取り消さないかぎり、更正処分の維持を求めることができないとするには及ばない。

以上の点から、この点の原告の主張は、認めがたい。

(二) そこで、労務費としての支出の有無について、判断する。

(1) 原告は、昭和四九年四月二〇日久多良工務店に支給した分金一五二万円の内金八〇万円は受注リベートとして支払つた旨を主張するが、右事実の認めがたいことは、二2(二)(三)において説示するとおりである。

(2) その余の分金二四九万九、〇〇〇円について検討する。

証人小林耕士の証言と甲第一〇号証の一ないし四の存在を総合すると、原告は、昭和四九年四月から秋にかけて勝手に久多良工務所こと久多良安名義の総額金三二九万九、〇〇〇円の昭和四九年三月から六月分の労務費名義の受領証を作成したことが認められる。

甲第一九号証の存在、証人久多良安雄の証言によりいずれも成立を認めることができる乙第一八号証、第一九号証の一ないし六および同証人の証言によれば、久多良安雄は原告に昭和三三年頃総武線の複々線工事の関係で作業に従事したことはあること、久多良安雄は長く株式会社青朋工務店の関係において季節労務者として勤務し、同四九年三月から八月にかけて同社から労働賃銀を得て働いており、原告の袖ケ浦現場で勤務したことはないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、原告は、労務費として久多良工務店こと久多良安あてに、原告主張の金員を支払つたことがなく、右金員は架空の労働者久多良工務店名義を用いて支出されたものであり、その支出原因はないものと認めるのが相当である。右認定に反する部分の原告代表者の供述および証人小林耕士の証言は信用しがたい。

なお、この点に関連し、原告は、右金員は久多良工務店ではなく山口安男あてに対し支払われた旨を主張するが、これを裏付けるに足る証拠はなく(原告の山口安男の証人申請も、証人久多良安雄の証言中に右山口の名前が述べられたことをもとになされたものであるにすぎず、自分の資料に基づく明確な結論を得てのものではない)、結局、原告の弁疏を十分であると窺わしめるには至らない。

(3) したがつて、原告は金二四九万九、〇〇〇円を労務費として適法に支出したものということはできず、右金員を労務費として認めがたいとした本件更正処分には違法はない。

4  減価償却費否認および譲渡益計上もれについて

(一) 原告は、この点と関連し、被告の本訴での主張は、更正処分に付記された理由と全く異なるからいわゆる理由の差換えは許されない旨主張するが、この点の原告の理由がなく採用しがたいことは、先に3(一)(2)において説示したとおりである。

(二) そこで本件資産の譲渡の有無について、判断する。

(1) 担当公務員の作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については証人小形章の証言により成立を認めることができる乙第九号証、担当公務員の作成部分については成立に争いがなく、その余の部分は証人川崎善佐の証言により成立を認めることができる乙第一〇号証、成立に争いがない乙第二号証、証人川崎善佐の証言により成立を認めることができる乙第一一号証、証人川崎善佐、同小形章、同小林耕士、同藤原修志の各証言、原告代表者の供述(但し一部)および弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(ア) 小形章は、かねて目黒通信建設株式会社(以下、単に「目黒通信」という。)の下請業者として電話工事をしていたが、昭和四七年四月頃から小形班として原告の下請工事を請け負い電話工事に従事していた。

(イ) 小形章は、原告から約二二四万円弱の借金をし、また、ダンプなどの車輛なども多くは原告から借り受けて工事に従事していたが、計画性を欠くため、漸次運営資金に行き詰り、業務運営に円滑を欠くようになつた。

(ウ) 小形章は、原告の経理を手助けしていた川崎善佐と相談した結果、昭和四九年二月川崎善佐を代表取締役とする日豊通信(小形章も取締役となり、主として、工事関係を担当)を設立し、日豊通信において、小形班のしていた原告の下請工事や目黒通信の下請工事をすることになつた。

(エ) そして、昭和四九年二月頃、原告代表者太田、日豊通信代表者川崎および小形三名が協議したすえ日豊通信において、小形が原告に対し負担していた債務約金二二三万八、八一八円を引き受ける、日豊通信において本件資産等の建設機械を右小形の債務を含めた金額として代金一三三二万八、〇〇〇円(もつとも乙第一一号証の記載した金員の合算では、一、三三二万八、〇〇〇円とあるが、現実には一、三二〇万円を支払えば足りるとされた)で買い受ける、日豊通信は取あえず代金支払のために金八〇万円の小切手(先日付)四通を原告に対し交付するとの約が成立し、日豊通信は右合意に基づき総計金三二〇万円の先日付小切手を原告に対し振出し交付した。日豊通信は原告の下請業者として、電話関係の工事に従事したが、計画性を欠いたため、漸次運営に窮し、昭和四九年一二月に倒産した。

(オ) そして、日豊通信はその間先に原告に交付した額面合計金三二〇万円(四通)の小切手を決済することはできたが、その余の代金額について小切手を振出しまたは現金で支払うこともできないままに終つた。

日豊通信は、昭和四九年一〇月頃原告に対し本件資産を返還したほか、同年一二月頃債務の弁済の含みで自己の所有していた平ボテ自動車二台を原告に引き渡した。

(カ) 日豊通信は、本件資産について、自己の取得した財産として、税務申告をした。

以上の諸事実を認めることができ、右認定に反する部分の原告代表者の供述は信用しがたい。

(2) 右認定したところによれば、本件資産は、昭和四九年二月に原告から日豊通信に売却(譲渡)されたものと認めるのが相当である。

原告主張のように賃貸借されたものと認めることはできない。もつとも、甲第一七号証には本件資産が賃貸借されたことを前提とする振替伝票が発行されていることが認められるが、右記載では、たとえば、小切手が受取手形と記載されているしまた証人小形章の証言によれば、四トン平ボテのトラツクはもともと日豊通信の所有に属し、原告会社から買い受けもしくは借り受けたことはなく、ただ日豊通信倒産後、債務弁済のために原告に引き渡したことが認められるところ、右四トン平ボテのトラツクについても賃料一七万五、〇〇〇円という真実に反する記載がされている。したがつて甲第一七号証は果たして昭和四九年三月一一日頃真実に即した記載がなされたものと認められず、これを信用することができない。

また、甲第一二号証ないし第一六号証、第一八号証の一、二も、原告主張にそう記載がなされているけれども、前述した諸事実から考えれば、これをそのまま信用することができないものである。

(3) もつとも、原告が、本件資産を売却した代金について、全額回収し得たかどうかは日豊通信が倒産したこと、代金額として支払われたのは金三二〇万円にすぎないことからみれば若干の疑問もあるが、本件資産の交付を受けたほか若干の建設機械の引渡を受けていることからみれば、一応その回収の目的を達しえなかつたものとまで断定できないのみならず、原告は、この点の反証をあげていないというのほかない。

(三) そして、原告が損金に算入した減価償却費が被告主張のとおり合計三八一万九、六二七円であることは当事者間に争いがなく、譲渡日までに係る減価償却費が被告主張のとおり合計金二五四万六、四一八円になることは、計算上明らかであり、したがつて、その差額合計金一二七万三、二〇九円は、損金に算入することは許されないことは被告主張のとおりである。

(四)(1) 前出乙第一一号証によれば、本件資産の日豊通信への譲渡価額が被告主張のとおりであることが認められる。

そして、前出甲第七号証によれば、本件資産の帳簿上の価額、当期償却額が次の表のとおりであることが認められ、したがつて、これらの譲渡時の帳簿価額(<1>―<3>)および譲渡損益が被告主張のとおりであることが認められる。

資産等

<1>昭和四八年七月一日当時の帳簿価額(円)

<2>同年七月一日から同四九年六月三〇日までの償却額(円)

<3>譲渡時の償却額(<2>×8/12)

(円)

T六五一D四トン 三菱ダンプ

九〇万四、六三一

三九万六、二二八

二六万、四一五二

KM三二〇四トン 日野ダンプ

三八万九、八七一

一七万〇、七六三

一一万三、八四二

H五〇三菱ユンボパワーシヨベル

四五五万五、三九一

一六八万〇、九三九

一一二万〇、六二六

コンクリートカツター

二五万八、〇八三

九万五、二三二

六万三、四八八

ユンボフオード 四五〇〇

四〇〇万一、二六二

一四七万六、四六五

九八万四、三一〇

(2) もつとも、コンプレツサーにおいては、前出甲第七号証において記載されておらない。そして、日豊通信に金六五万円で譲渡されたものと認むべきことは、前記のとおりである。

(3) 原告は、コンプレツサーを小形章に対し代金一三二万円で売却した旨主張するが、その信用しがたいことは、前記のとおりである。

ただ、被告は、この点について譲渡時の帳簿価格として金一二五万六、二三四円と主張しているところ、右価格は、原告が甲第一一号証―ただしその内容がそのまま信用することはできないことは前示のとおりである―における振替伝票において記載するところと同一であるところ、右の限度において被告が帳簿価額として、原告の記載するところに従つてこれを認めているものと解されるから、特段の事情のない本件では、右金額をもつて帳簿価額であると認めるのが相当である。

それゆえ、譲渡価額六五万円から帳簿価額一二五万六、二三四円との差額六〇万六、二三四円は被告主張のとおり原告にとつては損失であると認めるのが相当である。

(4) また、小形に対する債権の額金二二三万八、八一八円も日豊通信が引き継ぎこれを含めて本件資産の譲渡代金額を定めたものであることは前示のとおりであるから、右金二二三万八、八一八円は被告主張のとおり原告の譲渡利益から控除さるべきである。

(5) 以上のとおり差引計算すると、被告主張のとおり、差引金七九万二、一二八円を本件事業年度の原告の所得金額に加算すべきものであると認めるのが相当である。

(五) そして、固定資産たるコンプレツサー譲渡益たる金六万三、七六六円はないものとして所得金額から減額すべきことは、被告において自認するところである。

(六) したがつて、原告の本件事業年度の所得金額は、差引計算すると、金八三二万四、七九七円となるところ、右所得金額内である昭和五〇年六月三〇日付の本件更正処分(昭和五〇年一一月二七日付減額再更正処分のなされたもの)は、適法であり、原告主張のような原告の所得の過大認定はない。

三  そして、原告が三幸興業に対する重機賃借料として損金算入した金二一一万二、〇〇〇円および久多良工務店に対する労務費として損金算入した金三二九万九、〇〇〇円の内少なくとも、金八〇万円については、真実に反しまたは仮装をして納税申告書を提出していることは前記認定の事実から明らかであり、したがつて右に対し、被告が国税通則法六八条一項を適用して、本件重加算税賦課処分をしたことは違法ではない。

また、本件過少申告加算税賦課決定処分も本件更正処分(減額再更正処分内において)により新たに納付すべき法人税額から、本件重加算税賦課処分を除いた分について国税通則法施行令一一八条一項に基づいて算出、計算したものであつて、違法はない。

第三所得税等の納税告知処分の当否について

一  請求原因事実中、(三)の1の(1)、(2)、同2の(1)の各事実は当事者間に争いがない。

二  被告が原告代表者太田に対する賞与として認定し、本件納税告知処分をしたのは、<1>三幸興業あての金一五九万二、〇〇〇円および<2>久多良工務店あての金八〇万円の各金員の各支払についてであることは明らかである。

三1  そして、前記認定したところによれば、原告の前記三幸興業および久多良工務店あての各支払は、虚無人あてのものであり、真実に反するものである。

2  この点について、原告は、右金員支払について荏原(鋼管工事)あて、または小田(東洋通信)あてのリベートとして支出した旨主張するが、右が認められないことは、前記認定のとおりである。

3  成立に争いのない甲第五号証、証人小林耕士の証言(但し一部)、原告代表者の供述(但し一部)および弁論の全趣旨によれば、昭和四九年二月五日振出された金額一五九万二、〇〇〇円の小切手は第一勧業銀行成田支店において同年二月七日、昭和四九年四月二〇日振り出された額面金一五二万円の小切手は同日成田信用金庫富里支店においていずれも、原告の裏書によつて原告に対し現金で払出されていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

4(一)  原告において引き出した右合計金二三九万二、〇〇〇円の使途については原告の主張するようなリベートとしての支出が認められないことは前記認定のとおりであり、他にその支出事由の主張も立証もないけれども、原告において今なお所持し利得しているというような事実も認められないところである。

(二)  前出甲第七号証、証人小林耕士の証言、原告代表者の供述によると、原告代表者の太田個人の昭和四八、九年当時の年間報酬は金三〇〇万円にすぎないところ、一方四八年一二月から同四九年八月にかけての原告に対する再度の増資のうちの大半の資金は原告代表者個人において支弁し、したがつてその資金を右太田において必要としていたこと、また原告代表者個人は、いわば公私混同が多く、原告の資金をかなり流用しており必ずしも原告の経理担当者の処置とは一致していないことがままあつたことなどが認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  右事実および右金員二三九万二、〇〇〇円の支出について合理的な措信しうる事由が原告から明らかにされていないことなどを考えると特別な事情が窺われない本件では右金員について原告代表者太田個人において収得したものと推認するのが相当である。

5  したがつて、本件金二三九万二、〇〇〇円は太田英明が収得したものというべく、同人に対する申告された報酬以外の臨時的な所得である報酬たる賞与として認定した本件納税告知処分には、原告主張のような事実誤認は認めがたく、違法はない。

6  そして、原告は、本件納税告知処分に係る源泉所得税の対象となつた役員賞与に関して、これを法定納期限までに納付しなかつたことは本件訴訟の経緯に照らし明らかであり、したがつて、被告が国税通則法六七条一項に基づいて被告主張のような不納付加算税の賦課決定処分をしたことは適法であり、原告主張のような違法は認められない。

第四むすび

以上説示したところから明らかなように本件訴のうち、<1>被告が昭和五〇年六月三〇日付でした更正処分ならびに過少申告加算税および重加算税の賦課決定処分のうち、被告が昭和五〇年一一月二七日付でした更正処分ならびに過少申告加算税および重加算税の賦課決定処分(減額再更正処分)により取り消された部分、<2>昭和五〇年一一月二七日付でした更正処分ならびに過少申告加算税および重加算税の賦課決定処分(減額再更正処分)の各取消を求める部分はこれを不適法として却下し、右各部分以外の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 奈良次郎 鈴木経夫 吉田健司)

別表<省略>

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